2019/11/21
射出成形CAEは、成形プロセスで発生する成形不良現象を事前に予測し、対策の効果をシミュレーションすることで、開発期間の短縮や品質の向上に貢献しています。
CAEは樹脂成形品の開発・製造に欠かせない技術となっていますが、必ずしもその効果を100%発揮できているとは言えません。その原因として考えられるのが「シミュレーションと実測との乖離」です。この課題を解決するために、東レエンジニアリング D ソリューションズはAIの機械学習技術を応用した次世代型のCAEシステム“AI-TIMON”を開発し、2019年秋にリリースしました。この記事では「CAEによるシミュレーションと実現象を一致させるためにAIを活用すると何ができるか」をAI-TIMONを例にご紹介します。
薄肉化や高精度化、高品位な外観など、製品に求められる品質要求が高まるにつれ、CAE解析の精度要求はますます厳しくなっています。一方、シミュレーションは、材料物性や境界条件、物理現象などを仮定し、仮想的な解析モデルに置き換えています。シミュレーションの精度を高め、実現象に近づけるために、 当社は3D TIMON®の解析モデルを最適にチューニングしてご提供しています。
このチューニングは、多様な樹脂材料や形状(自動車バンパー、厚肉レンズ、微細コネクタなど)で、幅広く適用できるように調整していますが、個別の精度を突き詰めるにはこの初期設定のままでは限界があります。そこで3D TIMON®では、お客様側で解析パラメータを調整し、お客様の使用材料や製品種別にあわせた最適な解析システムが構築できる仕組みを用意しています。
こうしたパラメーターの最適化をノウハウとして蓄積することで、シミュレーションの品質を大幅に高めることができます。しかしながら、そのノウハウ構築には経験のある解析技術者のスキルが要求され、必ずしも容易ではありません。
解析技術者のスキル・経験によらず、射出成形CAEによるシミュレーションを最大限活用いただくために、AI-TIMONはAIの機械学習技術を応用し、パラメータ最適化を自動化しました。
基本的な仕組みは、解析で得られた入出力データに、フィードバック情報として実成形結果を加えデータを蓄積。これを教師データとして自動学習させ解析ノウハウを蓄積することで、製品種別に応じた最適な解析パラメータを自動生成します。これにより、これまでノウハウ構築のために必要とされていた多大な経営資源(ヒト・モノ・カネ)をかけることなく高精度なシミュレーション結果を容易に得ることができます。
AIで最適なパラメータを生成するためには、AIにうまく学習させることが重要です。AI-TIMONで行った工夫を、実装した機能とともにいくつかご紹介します。
射出成形時の物理現象を決める大きな要因はキャビティ形状であり、そのもととなる成形品の形状です。形状によって成形時の樹脂挙動は大きく変化します。そのため機械学習するうえで、「形状の認識」が大きなポイントになります。さらに学習モデルの構築を進めるうえで、あらゆる形状に対応するよりもある程度似通った形状でカテゴライズし、カテゴリー別にモデルを構築することが効率的で、精度も高まることが期待できます。
そこでAI-TIMONでは自動的に形状を分類する機能を実装しました。この機能によって、次のようなメリットを実現しています。
AI技術のキーになるのは、学習のもととなるデータです。このデータの良否がAIの品質を定めるといっても過言ではありません。効率的にデータを収集し、学習によって活用可能な形に変換しなければなりません。
CAE解析の現場では、金型設計や製品形状の修正を提案する際に、まず実測と解析との整合を検討することがしばしば行われます。また、設計提案の結果を反映し、実際に成形した結果もフィードバックされます。しかしこの実測データと解析データの比較や検討結果などの「情報」は、担当者個人の手元にとどまり、ノウハウとして共有化・標準化されていないことも多くあります。また、こうした「情報」はAI活用の観点から捉えると「良質な教師データ」になります。
そこで、AI-TIMONは実測データを含めた解析データを保存管理し、誰でも活用できる「情報」として蓄積するデータベース機能を実装しました。これらの「情報」から教師データを生成して機械学習を行い、高精度解析を実現する「知識」を有した学習済みのモデルを構築していきます。
では、学習済みモデルのパラメータを使うと、どのくらい精度があがるでしょうか。実例を見てみましょう。
この歯車のケースでは、多様な形状の歯車に対して収縮率の予測値と実測値を比較しました。3D TIMON®の初期設定による解析結果(図左)に対して、AIによる学習済みモデルのパラメータを利用した解析(図右)は、実測値との誤差平均が大幅に改善し、誤差のばらつきも小さくなりました。さらに教師データを積み上げることで、誤差が低下していくことが期待できます。
いかがでしたでしょうか。CAEへのAI活用は、使い方次第で、シミュレーションの精度向上に役立つことが伝わると幸いです。また、お客様のパイロットケースでは通常1年かかっていたパラメータ最適化が数日で終わる例も出てくるなど、果実を得るスピードや労力も改善できる点をAIのメリットとして最後に補足します。
AI-TIMONについてもっと知りたいという方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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